(つづき)
なんとか今、必要な準備を固めながら、この「攻めに出るわけにはいかない、どうしようもない時期」をやりすごす。それも、自分のリスクを最小限にして。「当たる面積を最小にして波紋防御」というやつです。意味がわからない方はどうぞお気になさらないでください。
当面、お金が減っていくこと(売上を稼げないこと)そのものは、おそらく何をしたところで、避けられない。仕方がない。今現在における真のリスクは、お金以外のところにある。準備をして、戦いに出られる時期が来るのを待つ。今は動くまいと決めたなら、動かざること山のごとし。
どちらにしても、デリ業態を続けたところで、売上が急降下していくであろうことは、その時点で目に見えていました。それよりも大事なことは、時間。戦略を考える、その準備をする、できることがあれば前もって実行に移していく、そのための時間。
改めて考えると、デリ業態は本当に大変でした(笑)。
あの商品数を、毎日「腐っていかない程度の適正在庫量」で用意し続けていなければなりませんでした。
そのために、需要予測をし、翌日と翌々日くらいまでの仕込みの段取りを考え、それに必要な食材を、適正なタイミングで適切な量、毎日小刻みに発注する計画を考える。
大きな飲食店のように、毎日何十人もお客様が来る中で、ときどきプラス10したりマイナス10したり、という幅の計画調整ではなく、「お客様がゼロの可能性も毎日想定しておかなければならない」(笑)という、弱小零細店ならではの難しさです。
片足でブレーキを踏んだまま、もう片方の足でアクセルをちょんちょんと踏んでいるような経営は、数字だけでなく体も心も一番安定に欠けるということを、身をもって学びました。
これにかける労力は、とても大きなものでした。どんなにお客様が来ていなくとも、上記のことは、常に朝から晩まで考え続けていなければならない。
各商品を少量ずつ用意して、少し売れるたびに、小ロットで新たに仕込む。
一般的に、ある程度の量をまとめて仕込んでも、少量で仕込んでも、手間はたいして変わらないものです。普通なら、まとめてある程度一気に作ってしまいたい。しかし私のデリ業態では、商品種類がそれなりにあったこともあり、それでは食材ロスのリスクが大きすぎる。手間がかかっても、都度都度、少量の仕込みを小刻みに繰り返すしかありません。
そこでまれに、たまたまある特定の商品が思ったよりたくさん売れることがあったりすると、「うおっ、売り切れた!これは今日仕込みする予定じゃなかったのに!しかもこれ、仕込みに時間かかるやつだし!今からすぐ仕掛けなきゃ!そうすると、予定してたあの仕込みの段取りが狂う!いや、ていうか、そもそもこれ作るための材料の在庫、今たぶん微妙に足りない!」みたいなことが、けっこうちょくちょく起こるわけです(笑)。
それでも、食材は日々劣化していくものなので、在庫を過剰に持っておくわけにもいかない。食材の発注量は常にギリギリを心がけ、「片足で常にブレーキを踏んでいる運営」をキープしていなければいけないのです。
そんなデリ業態の毎日だったので、食材ロスのリスクだけでなく、落ち着いて作戦を考える時間をとることがなかなかできない、という事情がありました。このことは、お金が減っていくこと以上のリスクでした。
腐っていくような種類の食材をたくさん抱えていることは、もはやそれだけでリスクだ。
そして仕込みと発注の段取りに常に追われているという仕事のサイクルも、リスクだ。
その二つのリスクを回避できるビジネス。
そして、今のしばらくの期間、多少なりとも売上を確保できるビジネス。
もちろん、それがこの下丸子という街において、地域的な意味を持ち、何らかの価値を感じてもらえるビジネス。
そして当然、後ろ向きな選択ではなくて、自分が積極的にやりたいと思えるビジネス。というより、「いつかやってみたいな…」と、ずっと思っていたビジネス。
そんなものは、ひとつしかない。
あれだ。
とんかつカンティーヌの開業準備をしていた頃、物件を確定する前、視察のためにこの街に来てみたとき、
マクドナルドがあれほどの混雑ぶりだったのと、コメダ珈琲から人が溢れていたのと、多摩川沿いに並ぶ大きなマンション郡を見て以来、
「やり方によっては、ぜったい、需要がありそうだよな…」とずっと考えていた、あれしかない。
今がチャンスだ!カフェを、やってみたい!
(つづく)
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